全世界の足掻き続ける”主人公”へ向けたラブレター「妹さえいればいい。」レビュー

健康診断の待ち時間用に全巻セットで衝動買いしたライトノベル「妹さえいればいい。」を読み終わりました。本のレビューを記事にするのは恐らく初めてなのですが、痛切に他人にオススメしたくなったので、文字に起こしてみます。

どんな作品か、どんなところが魅力か、どんな人にオススメか、という観点でレビュー記事にしました。未読の方へ向けて書くので、もちろんネタバレは一切しません。安心してご覧ください。

「妹さえいればいい。」はどんな作品か?

最初に一言だけ言わせて欲しいのですが、「タイトルから”妹もの”だと思って敬遠しているなら人生損してますっ!!」※個人の感想です。

「妹さえいればいい。」は数年前にアニメ化された作品で、世間的にはめちゃくちゃ大ヒット! ……というほどではなかったのですが、非常にハイクオリティにまとまったアニメで、「完結したら必ず全巻買おう」と心に決めていた作品です。アニメ版は、いわゆるブームの裏に隠れた名作だったと思います。

公式の分類は「青春ラブコメ群像劇」となっていますが、私としては「業界もの+青春+ラブコメ」な群像劇という印象を受けました。ラブコメが苦手な人も一定数いると思うのですが、良い意味でラブコメ感は弱いので、そういった層にもオススメできる作品です。

物語は、ライトノベル作家や出版業界の裏側を舞台に、”主人公”になろうと足掻き続ける登場人物達の姿が鮮やかに描かれます。

そこにあるのは創作物にありがちな「ただかっこいいだけの主人公」ではなく、我々と同じく些細なことで躓き、挫けながらも自身の夢や目標に向かって、あるいは、まだ見ぬ明日の自分へ向かって、泥臭く足掻き続ける等身大の自分達の姿です。

作者は「はがない」で有名な「平坂読」さん。イラストは可愛い女の子を描くことで有名な「カントク」さんです。文体はライトノベルらしく読みやすい文章で綴られており、イラストレーター「カントク」さんの美麗な挿絵が華を添えていますので、一般文芸には馴染みがない方でも楽しめる内容になっていると思います。

あらすじ

編集部からほど近い場所に住む、重度の妹バカである小説家「羽島伊月」の部屋には日頃から個性的な連中が集まる。伊月への超重量級の愛を抱える稀代の天才作家「可児那由多」。何事にもまっすぐに向き合う悩み多きオシャレ女子大生「白川京」。伊月と同期にデビューした、クールな見た目に熱い闘志を秘めた小説家「不破春斗」。それぞれの迷いや悩みを抱えながら、ゲームをしたり、旅行に行ったり、TRPGをやったり、仕事をしたり、賑やかで楽しい日常を繰り広げる伊月たち。そんな彼らを温かく見守る完璧超人の弟「羽島千尋」には、ある重大な秘密があって……

とにかく登場人物が全員”濃い”

あまり長くなりすぎると読みづらいと思ったので、あらすじには書ききれなかった登場人物が他にもいるのですが、メインとなるのは上記5人です。この作品で特筆すべきは登場人物が全員非常に”濃い”ということ。

小説家、大学生、編集者、イラストレーター、税理士、などなど色々な職業の人間が登場するのですが、どの登場人物もバックボーンがしっかり練られていて、その上キャラが非常に”濃い”です。

日常系の話って緩急が付けづらいもので、ともすれば話の内容が退屈なものになりがちですが、「妹さえいればいい。」においては、その心配は全く不要でした。全ての登場人物が魅力的で、かつ血の通った人間のような面倒臭さを持っているので、展開に平坦さが全く無いのです。

ライトノベルや漫画は「キャラが大事」とよく言われますが、この作品はいい意味でそれを体現していると思います。

ボリューム

一般的な文庫本サイズ(200ページ台前半くらい)で、全14巻で完結します。全巻を通しての主軸のストーリーラインはあるのですが、1巻ごとに内容はある程度完結しているので、もし気になるのでしたら、とりあえず1巻を読んでみてください。

個人的には7巻が非常に泣けました。7巻のラストを会社の昼休みに自席で読んでしまったので、「泣くまい」とするも耐えられずボロボロ涙が出てしまって、隣の席の同僚に「なんでこいつ昼間からボロ泣きしてるんだ!? そっとしておこう」と生暖かい目で見守られたのが良い記憶です(遠い目

この作品の魅力と欠点

さんざん語っているので、どんな部分が魅力か、というのは伝わっている(と思いたい)のですが、この作品の魅力について列挙すると以下のようになります。

  • 面倒臭さまで含めて非常に人間味のある魅力的な登場人物達
  • ほどよく”ラノベらしい”読みやすい文体
  • 思わず笑ってしまうような、登場人物達の突飛な行動
  • 作中に登場する色々なお酒と食べ物
  • メッセージ性が強く、巻を読み終わるごとに感情を揺さぶられる
  • そこら中に張り巡らされた伏線の数々(もちろん回収される)
  • 早く先を読みたいと思わせる展開の上手さ
  • 全巻読み終わった後の爽やかな読後感

副次的な魅力ですが、作中に登場する数々のお酒(特にビール)や、料理はどれも非常に魅力的に描かれており、日本のビールが嫌いな私も思わず「このビールなら飲んでみたいかも」と感じさせられました。

逆に、強いて欠点を挙げるなら以下でしょうか。

  • カントクさんの絵がめちゃくちゃ綺麗なのでじっくり見たい一方、ラノベ特有のサービスシーン的なイラストもたっぷりなので、外出先だとじっくり見れないジレンマ
  • 物語の主軸は万人にオススメできる内容なのだが、軽めとはいえ下ネタ成分があるので、耐性が無い人にオススメするのが難しい
  • 作者が「全裸派」である事は、「着衣派」としては欠点と言わざるを得ない(遠い目

最後の1つはネタです。作中でも登場人物達が熱く語ります(笑

欠点としてはやはり下ネタ成分が1番強いかな、と思います。私個人としては下ネタも大歓迎なのですが、他人にオススメするとなると、耐性が無い人も多いので、話の内容が良いだけに、その点が残念ではあります。

どんな人にオススメか?

「妹さえいればいい。」の内容は基本的には万人に向けてそれなりに響く物だと思います。しかし、あえて対象読者を絞るなら、以下条件に合致する人にこそ深く刺さる内容だと感じました。

  • この世の理不尽さ、不条理さを身をもって経験済みである
  • 他人から馬鹿にされようが譲れないモノがある
  • 絵や小説、音楽などクリエイティブな趣味や仕事をしている
  • 創る事が好きだ
  • 自分は努力家であると思う
  • 自分が生きる意味って何だろうと常に考えている
  • 「○○さえあれば良かったのに」と考えたことがある
  • 気づけば大人になっていたけれど、子供の自分が想っていた大人とは違うな、と感じている
  • 心のどこかで“自分の人生”を生きたいと感じている
  • “主人公”に憧れる

全てに一致していなくても、上記のいずれかに一致している人ならば、きっと深く心に刺さります。そんな熱いメッセージが込められた、平坂読さんから全世界の”主人公”へ向けたラブレター「妹さえいればいい。」、ぜひ読んでみてください。

あまりにも感動した勢いで思わず本のレビューを書き上げてしまいましたが、私は普段はお絵描きが活動の主軸だったりします。このブログでもイラストに関する話などを色々と書いています(クリックするとイラストジャンルの記事一覧に飛びます)ので、もしよければ覗いていってください。