AIの台頭により絵描きは廃業!? 今より更にAIによる作画技術が向上した近い将来について考えてみた

こんにちは、数日前に一般公開が始まったAIによる作画サービス「Stable Diffusion」のクオリティの高さに衝撃を受けております、子猫2000です。絵描きとしては「古江みみ」名義で活動していますので、良ければフォローしてやってください。本職IT系ということで、畑違いながらもこういった話題はちょいちょい追いかけていましたが、今回のクオリティの高さには「これまでの画像生成とは一線を画す」と感じたのが正直なところです。

「ほんの数分の出力時間でこんなハイクオリティな画像が作れてしまうなら、人間が絵を描く時代は終わるのでは?」と割と本気で考えたので、絵描き民としての立場から見た考察を記事にしました。

最初にこれだけは明確にしておきたいのですが、AIによる今後の予測というのは専門家でも出来ない、というのが実情です。それを踏まえたうえで、1つの意見としてご覧ください。

他のAI画像生成サービスと比べて、Stable Diffusionは何が凄いのか?

今までに公開されてきたAI画像生成サービスと比べて、Stable Diffusionの何がそんなに凄いのか? と言われると、「ハイクオリティで画像生成できる対象の幅の広さ」と「個人レベルで実用可能」という2点だと思います。

今までのAI画像生成サービスは例えば「人物はハイクオリティで画像生成できるけど、背景は苦手」とか、「リアル調の画像生成は得意だけど、アニメ調の画像生成は苦手」とか、それぞれに特徴があり、極めて限定的な範囲でのみ画像生成が上手く出来る、という印象でした。

Stable Diffusionがそれらと一線を画すのは、高品質で画像生成できる幅の広さです。

写真のような画像から、アニメ調の画像、アート的な画像まで、プロンプト(画像生成に使用する単語、文章)の入力次第で幅広く高品質な画像を生成できる点が優れています。この点は実際に画像を見た方が早いと思うので……

こんなアニメ調の綺麗な画像を生成できるかと思えば

写真で撮ったような謎の可愛い生物を生成出来たり

はたまた、サイバーパンクな風景を生成したり

と、非常に活躍可能な対象物が多いです。

凄さを伝えたいので成功例ばかり紹介していますが、実際は100発100中でハイクオリティな結果が出力されるわけではなく、9割失敗して1割成功する、という感じのようですが、プロンプトの吟味次第で成功率も上げられるようなので、そういった再現性の高さも実用可能性に直結していると感じました。

AI画像生成が抱える問題と危険性

昨今、AI画像生成が急速に発達していく中で、ふと気になった事がありました。

「あれ? これ生成した画像に著作権発生してるのか……?」と。

詳細は各自で調べてもらうとして、私がネットで調べてみた内容を要約すると、以下のような感じでした。もちろん、これらは記事執筆時の状況なので、今後どう変わっていくかは分かりませんし、鵜呑みにしないようお願いします。

  • 生成された画像の使用許諾については、各画像生成サービスごとの規約に記載されている。
  • 人間が生み出した作品は、作成されたその瞬間に著作権が発生するが、現状ではAIが生成した画像には著作権が発生するかどうかは法律が追い付いていないためグレーゾーン。
  • 外国では、AIが生成した画像に作品として著作権を認めるよう法廷闘争もあったが棄却されている。
  • 日本では著作物の定義について、著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したもの」となっていることから、AIにより生成された画像は権利対象外との見解が政府から出されている。
  • まだ実際の事例は発生していないようだが、AIの学習が浅く、生成された画像が既存の著作物に酷似していた場合は、著作権侵害となる危険性がある

などなど、法律が技術に追い付いていない感が否めません。

特に個人的に衝撃を受けたのは最後に記載した「AI画像生成により著作物の権利侵害を、無意識に起こしてしまう可能性がある」という危険性でした。

AIの画像生成は大量の画像データを学習させることで、過去の画像から切り貼りして新たな画像を生成しているのに近い仕組みです。そのため、特定の画像を生成した際に、それに関する学習量が足りない場合に、AIは著作権侵害となりうる画像を生成してしまう可能性があるのです。

そして、その際には画像生成した(プロンプトを入力した)人が訴えられる可能性があるという事です。AI画像生成を使用する場合、私たちも一歩間違えれば無意識に著作権侵害を行ってしまう可能性があるという意識は常に持っておきましょう。

AIが得意な事、苦手な事

AIにも得意・苦手はある。そう考えるとちょっと親近感も湧くかも……?

ここまでAIによる画像生成に関して紹介してきましたが、画像生成サービスで手軽に画像が生成できるとなった場合、「私たち人間の仕事をAIに奪われるのではないか?」という不安に苛まれるかもしれません。

しかし、AIも万能ではないので得意な事もあれば苦手な事もあります。代表的なものをいくつか紹介するので、今後の身の振り方の参考にしてみてください。諸説ありますが、今ある職業の9~5割はAI技術の浸透により消え去ると言われています。しかし、一方で新たな職業が登場しますので、AIの台頭により人間の仕事が無くなるのではないか? という心配は杞憂かと思われます。

AIが得意な事AIが苦手な事
数値計算など決まった答えが出せるもの事象から問題そのものを定義する事
具体的だが膨大な選択肢がある問いの解答抽象的な問いへの回答
過去に同様の事例が大量にある内容の類推前例が少ない内容への対応
データの紐づきから関係性がある可能性を提示する事一見、無関係な事柄の関連性を考える事
AIが得意な事、苦手な事

最近はAIブームなので、メディアなどがこぞってもてはやしていますが、詰まるところは機械です。極論ですが、突き詰めれば電卓と同じです。

「自分自身で思考し、問題提起して、答えを出す」という人間なら出来る行動はまだAIには不可能です。基本的に問題提起までは人間が行って、それを過去の大量のデータや、計算速度に物を言わせたパターン網羅などで答えを出しているにすぎません。

先述の「良い感じの画像生成」たちも、AIが「〇〇をこうしたら、××になって視聴者に▲▲な印象を与えられるので、○○はこうしよう」と考えて画像を作っているわけではありません。実際は「入力されたプロンプトに該当する過去の大量のデータを漁って、なんとなく数の多い物や、該当していそうなものを、意味も分からずに切り貼りして出力しました」ということをやっているに過ぎません。AIは自立的に思考しているわけではないのです。

そういった事情で、生成された画像はぱっと見ではハイクオリティでも、細部を見るとおかしな部分だらけになってしまうのです。なぜなら、AIにはそれが何なのか分かっていないから

人間に出来る強みは曖昧な表現や判断、無関係の事柄に意味を持たせること

AIが発達しても音楽や執筆、絵画など芸術作品の制作は無理だろうと長年言われていましたが、近年では必ずしもそうとは言い切れない結果をAIが実際に達成してみせています。しかし、AIと人間の決定的な違いは、表現1つ1つに意味を持たせることができるかどうかだと私は考えています。

先述の通り、AIは曖昧な事柄の判断が苦手だったり、抽象的な表現が苦手だったりします。しかし、芸術作品は表現1つ1つに意味を持たせた上で、それらを組み合わせて作者が伝えたいメッセージ性を具現化したものです。なので、「なぜこの表現を使用したのか?」の問いに答えられないAIには、本質的に芸術作品は作れないわけです。

これが良く言われる「AIには(今後も)芸術作品は作れない」と言われてきた理由であると考えます。

――しかし、実際はどうでしょうか?

たしかにAIは0から1を生み出すことは出来ませんが、そもそも人間も0から1を生み出しているとは言い切れないと考えます。

これは実際に作曲や執筆、イラスト作成などのクリエイティブな活動をされている方なら納得いただけると思うのですが、私たち人間も決して0から1は生み出していないですよね?

私は絵描きなので例として絵を出します。

例えば「猫耳の美少女メイドが料理を作っている」絵を作ろうと思ったとします。

すると、まずは以下のような資料を集めたり、考察を行うわけです。

  • 猫耳の構造や写真、イラストなど
  • 猫耳が実際に人体についていた場合の構造の考察
  • 美少女と認識されるための情報の整理
  • 先人達の写真やイラストから共通項を見つけ出し、取捨選択を行う
  • 料理を作る写真やイラストなどの資料
  • なぜ料理を作っているのか? の考察
  • 前後の時間軸では何を行っているのか? の考察
  • どんな感情で行動しているのか? の考察
  • それを表現するためにはどのような構図や表現が良いかの取捨選択
  • ここまでで出来た脳内イメージを綺麗に出力するために必要な資料集め

実際はもっと大量に細分化して考えていますが、ざっと大枠で記載しただけでもこれだけのことを考え、行動した結果として、「猫耳の美少女メイドが料理を作っている」絵は完成します。

先述の通り、この行動プロセスには「なぜ?」という人間的な思考、つまり曖昧な事象への問題提起と自分なりの回答、が大量に必要です。そして、これはAIにはできません。

一方でAIも「猫耳の美少女メイドが料理を作っている」絵そのものを作成することは出来ます。過去に人間が作成した膨大なデータから、関連性のあるデータを持ってきて、それらを”合っている確率の高い”選択を取りながら組み合わせていくのです。結果として「ぱっと見で良い感じだけど細部を見るとツッコミどころが多々ある絵」が完成します。そこに「なぜ?」という思考プロセスは介在せず、「なんとなく、過去のデータだとこうしていたから」だけの理由で画像は生成されます

もちろん、こういった手法でも「数打てば当たる」のは間違いではありません。なので、AI自身には生成された画像の良し悪しが分からなくても、それをディレクションする人間がいればいいわけです。そして、その場合はAIが生成した画像でも芸術性を持たせられる、と考えます。

イラストレーターと言う職業は残る

以上のAIの特性を踏まえて落ち着いて再考してみると、絵描きの代表職ともいえる「イラストレーター」という職業は残ると予想します。

判断基準は仕事内容の本質部分からです。

「イラストレーター」という仕事の本質は「クライアントの要望を汲み取って、それを絵という形で実現する」職業ですが、先述の通りAIにはこの本質の前半部分「クライアントの要望を汲み取る」という抽象的な活動が出来ません

それでも無理やり画像生成することは可能でしょうが、AIによる画像生成も初心者がいきなり予備知識無しで目的通りの画像を生成できるほど甘くはありません。プロンプトの選定や試行錯誤が必要とされるからです。その結果、生成される画像は無軌道なものとなり、クライアントが真に求める画像は手に入らないでしょう。

ですが、人間は違います。

AIが苦手とする自然言語処理を苦も無くこなし、文脈だけでなく、お互いの関係性や立場の違い、場の空気の流れなどから、文面通りではなくその裏に隠れた思惑まで推測することができます。(もちろん、これも訓練が必要な技術ではありますが、少なくともAIには出来ない技術の1つです)

そうしてクライアントの要望を汲み取る過程や、その後の作業内容は「今の」イラストレーターとは異なる物となっているかもしれません。

今後も進歩し続けるであろうAI画像生成は、イラストレーター自身の武器の1つとなり、大枠での画像生成を行ってから細部を人間が詰める、というような働き方が主流となるかもしれません。そうなればイラストレーターはディレクションや、クライアントの要望を汲み取る作業、細部の調整、などがメインの作業になり、大幅な作業時間の効率化が図れるでしょう。

この「作画時間を短縮し、作品としての方向付けに時間を割ける状態」というのは、いわゆる「よりクリエイティブな作業に時間を割ける」状態と言えるのではないでしょうか?

以上の理由から、これまで以上に「コミュニケーション能力の高いイラストレーター」の価値は上がると予想します。

絵を描くという技術的なハードルは下がり、「何を表現するか」が重視される時代になる

ここまでで書きたかった内容は大体書ききったのですが、最後に職業としてではなく趣味も含めた範囲での「お絵描き」を取り巻く状況の変化について予想してみます。

ここまでで述べたようにAIによる画像生成には、以下のような特徴があります。

  • 時短効果がある(適切に使うと、ある程度のクオリティを高速に出力可能)
  • 全くの初心者は狙い通りの画像を生成できないため、AI画像生成のスキルが必要
  • AI画像生成スキルの学習コストは、絵を学ぶよりも低いと予想される
  • AIは細部や表現の理由などに意味を持たせて画像生成する事はできない
  • 生成される画像は無軌道なので、人間によるディレクションが必要
  • 著作権のあり方は見直される可能性が高い

以上を踏まえて考えた結果、今以上に「個人が創作を行い発信する」文化は発達していくと思います。

正直言って絵を描くスキルの学習コストは非常に高い部類です。だからこそ、「本当は自分も表現をしたいけど、私は絵も描けないし、文章も書けないし、作曲できるわけでもないしなぁ……」と考えている層は、今現在は創作活動を行っていません。――本当はやりたいのに。

AIによる画像生成技術の進歩で、個人が画像を作成するハードルが下がる事から、こういった層が流入してくると予想します。結果として、ネット文化で活発化している創作活動の輪は、AI技術の進歩により更に広がるのではないでしょうか? 全人類が創作活動(≒芸術活動)を行う世の中が来るかもしれません。

そうなった時に真に重視されるのは、「純粋な技術力」ではなく「何をどう表現するか」によりシフトしていくと思います。いわば、創作戦国時代の幕開けです(デデドン

しかし、これまでに身に着けてきた絵を描くスキルが全くの無駄になるかというと、そういうわけではありませんので、むしろ現在創作活動を行っている方々はスタートダッシュできている状態とも言えます。今までの技術や知識も大事にしつつ、新しい知識を積極的に取り入れていけるような人なら、今後のAI技術の進歩がさらに進んでも心配する必要は無いでしょう。

ほら、「線画は自動でやってくれないかなぁ」とか、「色塗りは良い感じに塗ってくれないかなぁ」とか言っていた皆さん、そういった技術は目前まで迫っていますよ。AIが進歩しても、彼らに【表現】は出来ませんので、悲観しすぎず、これからも楽しく創作活動していきませんか?

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他にもお絵描きに関する記事を書いてますので、この記事が気に入った方は是非ゆっくりしていってください。