「才能が無いから絵が描けない」は本当? 双生児法の結果から見る遺伝の限界と可能性

こんにちは、今日は友人とSAOプログレッシブの映画を見てきてご機嫌の子猫2000です。少し前から上映開始しているようですが、「ぁー、そうそう、こういうので良いんだよ! 制作陣、分かってるー!」という感想を抱きました。死と隣り合わせの緊張感と、そこを仲間たちと潜り抜けていく”キリトさんかっけー”な爽快感が、終始神作画で描かれていました。やっぱ、劇場版アニメはいいですね。

さて、映画を見ていたせいで時間が遅くなってしまいましたが、今日は絵と遺伝の関係について「双生児法」という研究の結果などから分かってきたことを紹介しつつ、よく言われる「私って才能が無いから絵が描けないんだよね~」という発言について考えてみます。絵描きなら誰しも聞いたことがあるセリフだと思いますが、果たしてこれは事実なのでしょうか?

才能が無いから絵が描けない?

初めに結論を言ってしまうと、「才能が無いから絵が描けない」は近年の科学では否定されています。その根拠についてはこれから紹介しますが、その前に冷静に考えて欲しいです。

「生まれながらにめちゃくちゃ絵の上手い人」っていないですよね?

私は、みんな(特に絵を描かない人ほど)この事実を忘れている気がしてならない今日この頃だったりします。

それはさておき、「遺伝が絵の才能を決めるかどうか」については残念ながら「ある程度はYES」が答えとなります。しかし、一方で「双生児法」を用いた研究結果からは概ね「美術に対する遺伝の影響は5割程度、環境が4割程度、残り1割が本人の努力」という結論が出されています。

皆さんが肌で感じているように「生まれ持った才能」というものは存在しているようです。

どうやって調べたのか?

さて、冒頭で結論を最初にお伝えしましたが、科学的なデータだというなら根拠が気になりますよね。

これは「双生児法」と呼ばれる一卵性双生児と、二卵性双生児を追跡調査して分かった調査結果となっています。

例えば一卵性双生児は遺伝子が同じですが、全く同じ人間ではないですよね? それぞれ性格も違えば、得意な事も違ったりします。しかし、遺伝子が同じならば、その違いはそれぞれが属する「環境」に影響されたと見なせるわけです。家庭環境は同じでも、それぞれ学校では別のクラスに通っていたりするので、環境部分には違いがでてきます。そういった観点に着目して調査を行ったのが「双生児法」と呼ばれる方法です。

この記事は絵描き向けに書いているので「美術」を取り上げましたが、実際の研究では複数の分野について遺伝と環境の影響を調べています。興味のある方は調べてみてください。

遺伝が5割影響するというのは大きいのか?

スポーツは遺伝の影響が強い事は皆さん肌感覚でも実感していると思いますが、この研究結果では色々な分野(性格、勉強、スポーツ、知能などなど)についての結果が出ています。

「絵に遺伝が5割も影響する」と聞くと、非常に影響が大きく感じますが、この実験の結果からはむしろ「影響は小さい」という事実が見えてきます。その点について紐解いていきましょう。

まず他分野にも目を向けてみましょう。

例えば「音楽は遺伝が9割」という結果が出ています。そのほか「スポーツ」や「執筆」、「数学」なども8割以上と非常に遺伝の影響が高いことが示されています。

一方で遺伝の影響が少ないものだと「チェス」や「外国語」、「記憶」などはいずれも5割程度に収まっています。

ここからまず第一の事実が見えてきます。

「遺伝が5割程度しか影響しない絵は、遺伝の影響が少ない分野」という事実です。

これは「遺伝で才能の5割以上が決まってしまう」という「努力信奉の強い人」ほどショックの大きい結果ですが、まだ結論を急ぐのは待ってください。もう一つの事実を紹介します。

この実験結果には前提条件がある

ここまでで多くの人が見落としがちな事実があります。

それは「この結果は学校という皆が最低限同じだけは努力している環境で出たデータ」という事実です。

実際は好きな教科は家でも勉強していたりするし、家庭環境次第では塾に通っていたり、習い事に通っていたり、という個人差がありますが、「授業を受ける」という最低限の努力は全員に共通しています。

美術ではありませんが、学力については世帯年収との関係性を調べた研究や、勉強時間との関係性を調べた研究があります。そして、「学習時間が長いほど成績が良くなる」という結果が出ているのも事実です。

これらの学力に関する研究では「同じだけ努力した場合に、遺伝による影響で学力差が生まれる」という結果も出ています。

残酷な事実ですが「天才と凡人が同じだけ努力した場合、凡人は天才に敵わない」という結論でもあります。しかし、生まれ持った才能を変えることは出来ませんが、それを努力で補う事は可能です。(これについては論文執筆者の方達も言及しています)

凡人がいかにして努力を継続するかという内容は「凡人でも目標を達成できる! 努力継続のための5ステップ:「目標達成できないイメージ」も大事!?」という記事で、私の経験を踏まえつつ書いていますので、気になる方はそちらもご覧になってみてください。

まとめ

研究の中では「才能があっても、それに関する経験を全くしなかった場合、その才能に気づかずに一生を終える事も充分考えられる」との見解が示されていました。言い換えれば「努力しない天才より、努力する凡人の方が良い結果を出せる」という事でもあります。

しかし、その一方で「同じだけの努力をした場合、生まれ持った遺伝による”才能”の差で、凡人は天才に勝つことは出来ない」という事実もあります。

そして絵は遺伝の影響が比較的少ない分野であることも分かりました。

よって、この記事での結論は以下のように締めさせていただきます。

残酷ですが遺伝による才能というモノは存在しており、皆が同じだけ努力した場合、その差は顕著に現れる。しかし、その才能差が発現するのは全員が努力した場合であることや、そもそも芸術は他分野に比べて、才能に対して遺伝の占める割合が少ない事などを踏まえると、よく言われる「私は才能無いから絵が描けない」は誤りであると言えるでしょう。

見直すべきは努力の方向性と努力量、そしてなにより、限られた人生の時間をその努力に大量につぎ込む意思があるか。ではないでしょうか?

限りある人生の時間を出来るだけ有効に使いたいという方は、自分の強みを積極的に伸ばしていきましょう。以前投稿した「自分の絵の強みを知る方法:ジョハリの窓を用いた心理学的アプローチについて」という記事が参考になると思いますので、ご覧になってみてください。

上記以外にも、絵に関する記事を色々と投稿しています(押下で、イラストジャンルの記事一覧へ飛びます)ので、ゆっくりしていってください。

それでは本日はこの辺で。また次回の記事でお会いしましょう!

参考リンク